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京都地方裁判所 昭和31年(レ)79号 判決 1956年10月19日

控訴人 京峯商事有限会社

被控訴人 北村正男 外一名

主文

原判決を取消す。

本件を峯山簡易裁判所に差戻す。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人等は連帯して控訴人に対し金四万円及びこれに対する昭和三十年十月一日より完済に至るまで年四割の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の連帯負担とする」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴人等はそれぞれ「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において原判決事実摘示の中「原告は被告両名を連帯債務者として」とあるのは「原告は被告北村を債務者、被告山本を連帯保証人として」の誤りにつき訂正する、と述べた外原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

理由

控訴人と被控訴人等との間で昭和三十年十二月十七日午前九時の原審口頭弁論期日において本件貸金債権につき裁判上の和解が成立したこと、控訴人が昭和三十一年六月二十一日被控訴人等に対し債務不履行を理由として右和解契約解除の意思表示をしたことは当事者間に争がなく、控訴人が昭和三十一年六月二十五日右和解契約解除により訴訟が復活したものとして原裁判所に対し口頭弁論期日指定の申立をしたことは本件記録に徴して明かである。しかるところ和解契約はそれが訴訟において締結されたからと言つて私法上の契約たる性質を失うものではないから民法の規定に従いこれを無効とし又これが取消をなし得ることは勿論、その不履行ある場合にこれを解除し得るか否かも亦民法の規定により決し得るものであり、しかも適法な解除があつた場合は契約関係が遡及的に解消されることとなるから右契約が有効に存続することを前提とする訴訟終了の合意も亦効力を生じなかつたことに帰着し、従つて訴訟はなお繋属しているものと解するを相当とする。尤も契約の解除は契約成立後の事由に基き且契約自体の効力には何等の影響を及ぼさない点において、契約を構成する意思表示に附着する瑕疵を理由として且契約が当初に遡つて効力なきものとされる無効又は取消とその性質を異にし、更に契約の解除は取消と同じく契約成立後の当事者の法律行為による点において何らの行為を要しない無効と区別されるけれどもいずれもその結果として契約に基く法律効果が当初からなきものとされる点において異るところはないから、これらの事由による訴訟の存続又は復活の有無を判断するに当つては何らその取扱を異にすべき理由はないものと考えられる。

しからば私法上の和解契約が解除されたことを理由として期日指定の申立があつたときは右契約の解除が適法になされたか否かを審理判断した上解除が適法であるとすれば更に原告の請求の当否について判決をなすべく、しからざるときは右和解により訴訟が終了した旨の判決をなすべきものと解すべきところ本件和解契約の解除が訴訟手続終了後の当事者の法律行為であることを理由として原告の新期日における請求を棄却すべきものとした原判決は不当であつて取消を免れない。

しかして本件においては右契約解除の当否についてなお弁論をなす必要があるからこれを原裁判所に差戻すを相当と認め、民事訴訟法第三百八十六条、第三百八十九条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣久晃 嘉根博正 大西勝也)

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